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「グレアム尊士の好き勝手放題」

      

 

      

『コンコンコレクター - SHOP SQUAD -』

- 2nd Season -

Intermission_02 【 淡き残り香 - Blido Aromat - 】

 

 

 

 

 

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「あーっ、クーやんが女の子に泣かされてるッ!!」

「しくしくしくしく…」

 クレインがウクライナでの任務から帰還したことを知り、研究ラボまで迎えにきたチャペルは、彼がティーティーに一方的に蹴りしばかれている光景を見て驚きの声を上げた。

 その後クレインはすねを骨折していたことが判明し、ふたたび研究ラボで義体の治療をする破目になる。ぅゎょぅι゛ょっょぃ。

「弱っていてもきみの脚を折ることくらいはできるわけか。その義体もそう軟弱な代物ではなかったはずだがな…あの娘はたいした逸材だぞ、クレイン」

「身をもって体験しましたとも」

 ホワイトボードに貼りつけられたレントゲン写真を見つめながら感嘆の声を上げるライアンに、クレインが憮然とつぶやく。

 どことなくクレインが不機嫌なのは、なにも幼女に脚を折られたという不名誉を被ったからではない。ティーティーの保護…というか、世話役を任されたからだ。

 いくらティーティーに記憶処置を施したとはいえ、一度は自分が殺した少女なのだ。気まずいどころの話ではない。

「研究所に置いておくわけにはいかないんですか」

「もう収容施設に空きがなくてな…というのは冗談だが。あの娘の心理…精神状態を調べたが、あれは施設のカウンセリングに心を開くタイプではない。臆病で繊細だが、同時に相手の心理を読む鋭い勘を持っている。それに実験装置が併設された施設内では、猜疑心を煽り余計に心を閉ざしてしまうだろう」

「なにか不都合でも?そんなのは彼女だけの特性じゃあないでしょう」

「あの娘には未知の可能性がある。あの娘が心を開いたとき、『どうなるのか』を見届けたい。それを知るには、おまえたちの手元に置くのが最善だと判断した。この件についてはすでに上層部との間で話がついている」

「…任務、ですか」

「任務、だ」

「…ハァ。わかりました」

「頼もしい返事だ」

 見るからに気落ちするクレインに、ライアンはやや意地の悪い笑みを浮かべた。

 任務という言葉を使えばクレインが逆らえないことを、彼女はよく知っているのだ。

 その後クレインはティーティーを連れたチャペルとともにスプリングフィールドのセーフハウスへ戻ったが、彼のいつにない落ち込みようにチャペルはいささか戸惑いを覚えていた。

 ティーティーについての簡単な説明はライアンから受けていたが、ウクライナの任務で何があったのか具体的な話は聞いていない。

 ベケットたち三人の間では単独で受ける任務については互いに詮索しないという暗黙の了解があったからだが、それはパートナーへのフォローを破棄することを意味しているわけではない。

 クレインが自分たちよりも厳しい任務につくことが多いのを以前からそれとなく察していたチャペルは、どうにか彼が元気を取り戻す方法がないかと悩み、ティーティーが傍にいるのも構わず話しかけた。

「ねぇ、クーやん」

「なんだい」

「エッチする?」

「そういうのを人前で言うんじゃありません」

 チャペルの言葉の意味を理解していないのか、きょとんとするティーティーの横でクレインは額からダラダラと汗を垂らしつつ手を振る。

 その素っ気無い態度に、チャペルはわざとらしく頬を膨らませた。

「ちぇー」

「ちぇーじゃなくて。いきなりすぎるよ」

「元気になるかなーと思って」

「下半身が…いやそうじゃないか。ちょっと発想が安直すぎると思わない?」

「いまアタシのこと頭カラッポだと思ったでしょ!?」

「いやそうじゃなくてね。参ったな…」

 しばらく口論を続けたのち、ティーティーを別室に寝かしつけたあとで、けっきょくなし崩し的に身体を重ねるチャペルとクレイン。

 なんだかんだ言ったものの、それで本当に多少は元気になってしまうのだから、男っていうのはなんとも現金なもので…

 問題は、その光景をこっそりティーティーに見られていたことだが。

「はわわわ…すごいものを見てしまったのです……おとなの階段上がったです……」

 さらに問題なのはティーティーがそのときの光景をこっそりビデオに撮影しており、のちに知り合うことになるソナー(チベットの任務でベケットたちをサポートした)と回覧したことだった。もちろん後で本人たちにバレたが。

 ただ新しい同居人に構わずおっ始めた気まずさもあったため、チャペルとクレインは記録メディアの回収だけで済ませティーティーを咎めることはしなかった。ちなみにその記録メディアはチャペルのコレクションとして大事に取ってあるという(クレインはそのことを知らない)。

 

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 一方…

「これは…いったい、なにが……!?」

 時は、クレインがコンクイと合流し東ウクライナからの脱出をはじめたときまで遡る。

 隠れ家のある方角から巨大な爆発音を聞いた酸味ッ狐は、瓦礫の山と化した廃工場の跡地を見て絶句した。

 ガス爆発でも起きたのか?まさか攻撃を受けた…こんなえげつない方法で?誰が?対立しているウクライナ独立派か?それともティーティーを連れ出した、あの胡散臭い狐魂か?

 いや、実際に何があったのかはこの際どうでもいい。重要なのは仲間の安否だ。

 酸味ッ狐は目をかっと見開き、物質を透過し生命反応を検知する不可視の光線を照射する。

 そして瓦礫の中から微弱な生命反応をキャッチしかけた、そのとき。

「くそっ、やられた!」

 ドッ、ガラガラガラ!

 鉄筋入りのコンクリートの塊…いったいどれほどの重量があるのか…を片手で跳ねのけ、傷だらけのミンブが顔を出す。

 続いて…

「いやーんもう、なんてことかしら!なんたる惨い仕打ち!せっかくのお化粧が崩れちゃったわ!」

「タフだなおまえ…」

 爆発の直撃を受けたはずのハクオウが煤だらけの姿で飛び出し、ミンブから呆れとも賞賛とも取れぬ微妙なコメントを受ける。

 やがてフーコとヒナゲシものろのろと起き上がり、何が起きたのかわからないといった表情であたりを見回した。

「うぅ…すさまじい幻覚。ちょっとお薬の量が多かったかしら」

「えーちょーまーこれなに?なにこれ?第三次世界大戦でも起きた?」

 VHSのケースに仕掛けられたセムテックスのことを知らない二人に、ミンブはため息がちに説明する。

「あのアメリカ人の置き土産だよ。ビデオのケースに爆弾仕掛けてやがった」

「うわぁお。えげつなっ」

「あーん、せっかくお手紙書いてた途中だったのにー!灰になっちゃったーんもぉー!」

 自身が爆殺されかけたにしては控え目な表現をするフーコ、一方のヒナゲシは死にかけたこと自体どうでもいいようだ。

 とりあえず仲間の無事を確認し安堵した酸味ッ狐は、ふわり、ふわりと瓦礫を飛び越えて四人のもとへ向かった。

「よかった、無事で」

「酸味ッ狐…あんた、独りで戻ってきたのかい?ティーティーは?」

「逃げられた。外部に協力者がいたようだ」

「そうかい、あんたが振り切られたってことは…あんたの能力を疑う気はないから、よっぽどアジな手を使ったんだろうね。つくづく気に入らないよ、あの男」

「どうする?」

 クレインの顔を思い浮かべ舌打ちするミンブに、酸味ッ狐は今後どうすべきかについて尋ねた。

 もしティーティーが上手くやれていたら…ミスター・スティーブの時と同じくクレインを始末し、湖底に沈め、戻ってくるようであれば、何も問題はない。しかし万が一別の可能性が有り得るとするなら、いつまでもここに留まっているのは危険だ。

「すぐに警察や軍の駐屯部隊がやって来るかもしれないし、ウクライナ独立派の連中が様子見に来るかもしれない。いくらなんでも、手負いでそいつらの相手をするのは御免だからね。さっさとズラかるよ」

「でも、もしあの娘が戻ってきたら」

「ティーティーかい?」

 酸味ッ狐が心配していたのは、ティーティーがすべてを終えてここに戻ってきた場合のことだ。

 隠れ家が潰され、仲間が姿を消し、タイミングが悪ければ既に非常線が張られているかもしれない。そんな場所に一人で放り込むことになるのを、彼女は怖れていた。

 しかし、そんな心配をミンブは一笑に伏す。

「あの娘もプロだろう?もし万事滞りなく進んでたら、向こうからアタイたちを見つけるさ。そうだろ?」

「…うん」

「付き合いはあんたのほうが長いんだ、もうちょっと信じてやんな。さ、わかったらさっさと行くよ」

 ミンブの号令とともに、親ロシア派のメンバーたちはぞろぞろと移動を開始する。

 残念ながら、彼女たちがティーティーの姿を見ることは二度となかった。互いにもう死んだものと思い…それが良いことか、悪いことかはわからない。確かなのは、それぞれが別の道を歩みだしたということだけだ。

 

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 ティーティーが研究所からスプリングフィールドのセーフハウスに移って一週間後。

 どんなにつまらない映画でも、クレインは日を置いて繰り返し見返すクセがあった。

 今日こそは、今度こそは面白く見れるんじゃあないかと、そういう期待を抱いて再び挑むが、しかし過去の感想が覆されることは稀だ。たいていは予想していた面白くなさに打ちのめされ、日陰のウンコを踏んづけたような後悔だけが残る。

 その気分はまるで、辛い現実に立ち向かおうとするときのようだ。

 今度こそは上手くやれるんじゃあないか、昔よりも多少はましにできるんじゃないか、あるいは、「それはそれで悪くないように思えるようになるんじゃないか」と…「どういう視点から切り込めばこの映画が面白く観れるか」というのは、そういった類の挑戦と非常に近しい。

 両者の共通点は、問題は自分の目の前にある、ということだ。

 問題を解決するためには、問題そのものを直視しなければならない。その本質を理解する必要が、理解しようとする努力が必要になる。少なくとも、クレインはそう考えていた。

 そして時に、他者の忌憚なき意見が助けになることもある。

 自分の頭だけでは到底導き出せなかったであろう解答を出してくれる、あるいは自分が解答を得るきっかけを与えてくれるのは、自分とは異なる感性、インスピレーションを持つ者であることは往々にしてよくあるのだ。

 そんなわけで、いま…クレインは、セーフハウスのプライベートルームにあつらえたホームシアターセットの前で、ティーティーを膝の上に乗せた状態で巨大スクリーンに映し出された映画をぼーっと眺めていた。

 いまのところティーティーは反抗的な態度を示すことなく、非常に落ち着いている。

 研究所にいたときは目覚めて間もなかったため動転していたのか、あるいは仕事ではなくプライベートでのクレインの姿を見て、彼が本質的には悪人でないことを悟ったためか…もっとも、内心ではまだ彼のことを恨んでいる可能性も、もちろんある。

 あえてチャペルに任せずクレイン自身がティーティーの面倒を見ているのは、誤解を怖れず前に進みたいという気持ちが彼にあったからだ。任務だったとはいえ、幼女に恨まれたままとか悲しすぎるじゃありませんこと?

「どうかな、この映画」

「…ぁの…おもしろく、ない。です……」

「そうか…」

 サッカーの試合中に流れるようなスライディングで金的を潰されて悶絶する青年の姿が大写しになっている光景を虚ろな目で見つめるティーティーに、クレインは淡々と尋ねる。

「どれくらい、面白くないと思う?」

「…すごく……」

「そうか…」

 雪山で復活するたびに何をする間もなく殺される邪神の姿を、二人はしばらく無言のまま見つめていた。

「聞いていいかな。具体的に、どこが面白くないと思う?」

「…ぜんぶ……」

「そうか…」

 すでにこの映画を何度も観ているクレインは、ティーティーがモニターの前から離れなくてもいいように、ポップコーンやドリンクを自ら進んで取りに行く(そのときだけティーティーの両脇を抱えてソファに下ろし、飲食物の準備ができたら再び膝の上に乗せる)。

 初見の人が画面から目を離さずに済むという、デキる男の気遣いスタイルである。

「ちなみにこの映画、あと一時間あるんだ…」

「あぅ」

 後日。

 トレーニング・センターにおける不定期の戦闘訓練中、クレインは完治したばかりの足をふたたびティーティーに折られることになる。

 そのときの様子を、のちにチャペルはこう語った。

「なんというか、うん…ドス黒いクレバス、って感じだったかな」

 

 

 

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