「グレアム尊士の好き勝手放題」

      

 

      

『コンコンコレクター - SHOP SQUAD -』

- 1st Season -

Intermission_01 【 休息 - St.Chiristmas - 】

 

 

 

 

 

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 戦場のクリスマスは寒かった。

 侘しい携帯糧食でのディナーを終え、普段は吸わない煙草に火をつけながら、ベケットが愚痴をこぼす。

「身も心も冷えるぜ…ッたくよォ、なんでオレたちが飛ばされんのは、すげー暑いかすげー寒いとこばっかなんだ?もっとフツーの場所はねーのか畜生」

「温暖化さ、全部温暖化のせいだよ。それに、両方が一日のうちに訪れる中東よりはマシじゃないかな、曹長?」

 ベケットと背中合わせでポータブルDVDプレイヤーの小さな液晶を見つめているクレインが、気のない返事をよこした。モニターの中では、低予算TVドラマでもここまで酷くないという安っぽい合成映像で構成された怪獣パニック映画が流れている。

 相も変わらずの無表情でモニターを見つめるクレインを一瞥したベケットは、この映画のどこにそんな魅力があるのかと考えたが、感想を口にするのは止めにした。こんなクソ映画のために消費されるバッテリーが可哀相だという言葉しか浮かんでこなかったためだ。

 現地で買った煙草は酷い味がしたが、それでも無いよりはマシだった。レーションに煙草が封入されなくなってから久しく、それどころか禁煙を推奨するようになってから随分経つ。

 間に合わせで作った焚き火の向こうでは、チャペルが飯盒に入れたインスタント・コーヒーを啜っているところだった。

「文句ばっか言ってても仕方ないよ、べーやん」

「だな。早く終わらせて、早く帰りたいぜ」

 本来ならこのような目立つ野営はご法度だが、周囲には身を隠せる場所がないうえ寒さが酷く、体力と士気の低下を懸念しての大胆な判断だった。

 マニュアル通りの行動が必ずしも正しいとは限らない、というのがベケットの主義で、なにより視界が制限される環境下では各種センサーと暗視装置を備えているこちらが有利という強みもある。

「ところで、さ。カレ、使い物になりそうかい?」

「あん?」

 振り向きもせず、目線一つ動かさず唐突につぶやいたクレインに、ベケットはすぐに返事を返せなかった。

 クレインの言う「彼」というのは、ベケット・チャペル・クレインの三匹が休憩しているあいだ歩哨に立っている新人のことだろう。

 ベケットたち三匹に続く第二世代重装狐「CON(Cyber Optical Neuron interface)アーマー・マーク2」を装着した新人は試作型のアサルトライフルを手に、油断なく周辺を警戒している。その動きはどこかぎこちなく、見るからに肩に力が入っている。

 寒さからか、緊張からか、動きの固い新人を見つめながら、ベケットはこともなげに言った。

「あいつなら大丈夫だよ。オレが直々に鍛えたんだぜ?それとも軍曹、オレが信用できないか?」

「いや。ただ、訓練と実戦は違うからね」

「すぐに慣れるサ…それと、あいつは『彼』じゃなくて『彼女』だ」

「ホント」

 男連中がそんなやり取りをしているあいだ、チャペルが新人の傍までトコトコと歩いていく。

 飯盒に半分ほど残ったコーヒーを差し出しながら、チャペルは柔らかい笑みを浮かべて言った。

「これ、どーぞ?疲れたでしょ」

「ありがとうございます、でも、あの…これ、脱いだらまずいですよね」

 新人…アンダーウッド上等兵は、やや困ったような態度で自身のヘルメットを指差した。

 重装狐のセンサーや暗視装置などの機能はヘルメットに集約されている。ヘルメットを脱ぐと探査能力が大幅に低下するうえ、歩哨も立てず隊員全員が同時に休むことは、敵の接近と襲撃を許しかねない。

 そのことを危惧してだろう、コーヒーを受け取ろうとしないアンダーウッドに、チャペルは言った。

「それなら、アタシが代わりに立つから。そろそろ交代してもいい時間だしね」

「でも、上官を差し置いて休むなんて、できません」

「じゃあ、上官として命令するね?休みなさい、上等兵」

 伍長階級のチャペルはそう言うと、雪除けのカバーを払ってヘルメットを装着した。

 苦笑しながら渋々コーヒーを受け取ったアンダーウッドに、クレインが質問する。

「ところでキミ、毛色が曹長と同じだね」

「ああ、兄さま…えーと、ベケット曹長とは、遺伝子的な血縁関係にあるそうです」

「素体の?」

「ええ」

 重装狐は人工的な肉体に、単一では肉体を形成できない低級の狐魂を封じたもので、その人造素体には人間の遺伝子も使われている。

 ベケットの素体にはアフリカン・アメリカンの男性、チャペルの素体にはフランス人女性の、クレインの素体にはイギリス人男性の遺伝子がそれぞれ用いられており、それが個々人のパーソナリティの形成に少なからず影響を与えているのは事実だ。

 そしてアンダーウッドの素体には、ベケットの素体用に遺伝子を提供した男性とともに兄妹で海兵隊に従事している女性の遺伝子が使われている。そのことから、アンダーウッドは重装狐としての自己認識が生まれたときからベケットのことを「兄さま」と呼んで慕っているのだった。

「妹か、まったく羨ましいね。もう手は出したのかい、曹長?訓練中にさ、子作りの訓練とか言って…」

「なに言ってんだおめぇ。そんなことするか」

 下世話なジョークを飛ばすクレインに、ベケットは真顔で否定する。

 その様子を見つめながら、チャペルがアンダーウッドに話の水を向けた。

「…だってさ」

「兄さまが私を女として見ていないことは薄々勘づいていました。すこし、ほんのすこし、残念ですが」

「だってさ」

「馬鹿野郎、そんなエロゲーみたいな真似、実際にできるかっ!」

 周囲に冷やかされ、ベケットが大声で叫んだ、そのとき。

 不意にチャペルが姿勢を低く落とし、他の三匹に信号を送る。すぐさま全員の脳に感情抑制剤が投与され、賢者タイムが如くクールダウンした状態で、ベケットが小さく訊ねた。

「…どうした?」

「お客さんみたい。分隊規模、偵察隊かな?すぐに撃ってこないところを見ると、まだこっちの正体には気づいてないみたいだけど」

 チャペルの報告を聞きながら、あたりに散らかったゴミをクレインが回収し、焚き火を消す。

 岩陰に立て掛けてあったガトリングガンやロケットポッドを装着したベケットが、無線機越しに全員に通達した。

「周辺警戒、ほかにも敵がいないか確認しろ。迷彩を展開して散開、ただし離れ過ぎるな。雪が光を反射して暗視装置をアテにし難いからな、ちょっとでもヤバそうだったらすぐに応援を呼べ。軍曹、C4はあるか?」

「小屋を一軒吹っ飛ばせる程度なら」

「上等。このキャンプに仕掛けてくれ、こっちからアンブッシュを仕掛けてやる。しかし、なんてぇクリスマスだ、まったく」

 最後に一言けちをつけてから、ベケットは装甲表面のカモフラージュ装置を機能させる。高精度の光学迷彩を装備しているのはクレインのアーマーだけだが、視界の悪い雪中で姿を隠すだけなら簡単な保護色形成だけで充分に足る。

 こうして、重装狐隊ガンマユニット・アルファは臨戦態勢に入った。

 

 

 

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