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「グレアム尊士の好き勝手放題」

      

 

      

『コンコンコレクター - SHOP SQUAD -』

- 2nd Season -

Chapter_04 【 凍てつく瞳 - Eyes on the ICE - 】 Part_3

 

 

 

 

 

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「落ち目のソフトウェア会社への襲撃って聞いたから、どれだけ楽な任務かと思ったら…相手完全武装じゃないか」

「ルイス、あなたまさか、兄さまの任務を遊興かなにかと考えてた?」

「新兵を組み込むくらいだから、お上公認で吹っ飛ばせる新鮮な肉( Flesh meat )を用意してくれたのかと」

「残念ね。ただの射的なら訓練キャンプで必要充分よ」

「だよなぁ…」

 銃を手に油断なく進みながら、アンダーウッドはどことなくやる気のなさそうなルイスを一瞥した。

 彼は…ルイスは、いつもこんな感じだ。

 物心ついたときから人間社会に紛れて生活し、軍隊に興味のなかった彼が学費の免除を目当てに入隊したのが運の尽き。

 FDD(狐が死んだ日)以後、人間社会に急増した狐魂への対処のため、入隊時の適性検査時に軍が新たに導入した狐魂スキャナーに見事に引っかかってしまったルイスは、そのまま新設された対γ用狐魂部隊1st-CASTERに組み込まれてしまったのだ。

 軍隊生活に執着がなく、一刻も早く普通の生活に戻りたいルイスは任務中に手を抜くことこそないものの、やる気のなさや軍への嫌悪を隠そうとしない。

 そのせいで、軍隊に憧れを抱き軍人としての誇りをなによりも大切にするエデンとは水と油の仲だった。

 もちろん、それで任務に支障をきたすほどのアマチュア脳ではなかったが…

「地上階だけでなく、上階からの銃撃も多くなってるな。窓、叩きます?」

「ええ、お願い」

 ルイスは巨体を動かしてアンダーウッドの前に出ると、手にしていた巨大な機関銃をゆっくりと持ち上げた。がちゃり、と剥き出しの弾帯が揺れる音が鳴り、三つの銃口が、ILCビル上階の窓をしっかりと正面に見据えていた。

 ケルベロス・ヘッド。ルイス専用、特注の三連銃身式機関銃だ。

 外観はM60に酷似しているが、内部機構はまったく異なる。まるで地獄の番犬の双眸のように配置された水平二連の銃身の口径は7.62x51mm、フレーム両側面の弾薬箱からベルトリンクで供給される銃弾の薬莢は上面から排出される。

 そしてもう一本の銃身、フレーム後部のドラムマガジンからブルパップ構造で給弾される番犬の顎(あぎと)の口径は12.7x99mm。それら三本の銃身が逆三角形状に配置されたこの機関銃は、個人携行用としては最大級の火力を誇る。

 しかし反動を抑えるため意図的に嵩増しされた重量、そしてなお相殺しきれない強力な反動は第二世代型CONアーマーを着用していてもなお扱いが非情に難しい。

 これはルイスの類稀な身体能力と、そしてルイス専用にチューンナップされたアーマーの性能があってこそ初めて扱える代物なのである。

 それを、ルイス自身が望んでいたかどうかは別にして。

 バゴガガガガガガガガッッッ!!

 けたたましい銃声とともに、大口径のライフル弾がSの字を描くようにビルの四~五階あたりから二階までを舐めるように穿ち抜く。それは窓と言わず、鉄筋入りのコンクリート壁でさえも容易に破砕していった。

「やり過ぎないようにね。銃眼が増えると、こっちも応戦しにくくなるから」

「了解、ひとまずサービスタイムは終了してマラソンといきますか」

 二人は銃で狙いをつけるのを一旦止め、全力疾走の姿勢をとった。

 パワーアシスト・システムの出力を疾走( over running )モードにセットし、時速30kmのスピードで一目散にILCビルへと駆け出す。

 ガシャ、ガシャッ、ガッシャ!

 激しい金属音を立てながら、アンダーウッドとルイスはアルファルトの地面を蹴りあげる。

 これがベケットたちの着用するCONスーツであれば、さしたる物音一つ立てずに同じ速度で走れるはずだ。それが隠密行動を前提とするCONスーツと、あくまで正面戦闘を得意とするCONアーマーの差だった。

 二人が攻撃を手を止めたことで、敵がまたぞろ一斉に銃撃を仕掛けてくるかと思いきや、さにあらず。

 ILCビルに篭城する保安部員たちの注意は、もっと別の方角へ向けられていた。

 ドコッ……

 幾つか立て続けに、遠方から低く鈍い銃声が聞こえてくる。

 走り続けながらアンダーウッドがヘッドセットに組み込まれたレーザーマイクを照射し、敵の会話の傍受を試みた。

『狙撃兵だ!』

『どこから撃たれた、距離は!方角は!?』

『待て、一度退け!さっきの狙撃を見たろう、コンクリート・ブロックを貫通したぞ!壁は遮蔽にならん、そんな威力の銃を使う相手に、こちらの銃では射程距離外だ、恐らくは…上の指示を待つんだ!』

 狙撃…エデンだ。

 敵が想定しているほど遠距離から狙っているわけではなかったが、それでも小型の特殊弾で対抗できるほど優しい距離ではない。

「どうやら姫も仕事してるようだな」

「愚問ね」

 やや嫌味っぽく言うルイスを、アンダーウッドが一蹴する。

 ちなみにこの「姫」という呼称は新人のスパーキィが使いはじめたもので、嫌がるエデンを構わずそう呼び続けたところ、あっという間に隊内で定着してしまったのだ。エデンの心中は察するに余りある。

 やがて二人はベケットが空けた大穴からILCビルに侵入し、疾走モードを解除、周囲の安全を確認するとともに無線でその旨をベケットたちと、そして装甲車で待機しているソナーに伝えた。

 ここからが本番だ。

 

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「まさか、いきなりリーサル・ロックの解除とはねぇ。ブレイっちがこんな大胆な判断するとは思ってなかったな」

「致仕方があるまい、状況が状況だ」

「に、してもさ」

 出撃準備を整え、冷静に受け答えをする兄のビリスに、オロシはやや含みのある声を漏らした。

 ILC保安部における危機対処段階において、リーサル・ロックの解除は最上級であるレッド・アラートを意味する。それはつまり、警告や捕縛といった一切のプロセスを飛ばすことを意味していた。

 要するに、『相手の正体や目的を探る必要はないから、とにかく殺せ』ということだ。

「いきなりロケットぶち込んできたんだって?無茶するよねぇ」

「敵対企業の工作員か、たんなる自殺志願のテロリストか…もっとも、その正体の誰何は我々の仕事ではないが」

 ベケットたちが建物を襲撃したとき、オロシとビリスの兄妹はちょうど休憩中だった。

 ILC保安部の担当するセキュリティ・エリアは主に三箇所に分割されており、三人の狐魂がそれぞれ各エリアの班長として部下の職員を統率している。

 そして建物内の電子的なセキュリティ・ネットワークのすべてを管理し、監視カメラ等から得た情報をもとにエリア班長に指示を出すのがブレイの役割だった。

 最初の爆発から、まだいささかの時間も経っていない。

 オロシとビリスは下級の人間職員と違い、警官のようなブルーの制服を身にまとい(オロシはジャケットを腰に巻いていた)、腰には銃のかわりにメッキ加工されたチェーンが巻いてある。

 チェーンにはミニチュアの斧や、クナイのような小型の刃物が複数ぶら下がっており、一見するとそれらはファンシーなアクセサリにしか写らない。しかし、これらが二人の必殺の武器であるということは、保安部内の人間であれば誰もが知っていることだ。

 そして…

「リーサル・ロックの解除って、意図的な施設へのダメージも許可されてたっけ?」

「職務上必要になる場合のみ、会社の財産たる器物への損害に対する責任の追及はなされぬものとする…規約にはそうあるね」

 ビリスの大きな背中からひょっこりと顔を出した同年代の少女に、オロシは入社するときに読まされた宣誓書の内容をそらんじてみせた。

 もう一人のエリア班長であるフォトは美しい銀髪を揺らし(悔しいことにオロシの髪はくすんだ灰色で、手入れもフォトのほうが行き届いていた。シャンプーの違いだろうか?)、子供っぽい笑みを浮かべる。

 他の二人よりも状況把握能力に優れている『狐の第六感( Fox Senses )』を持っているからか、すでに襲撃者の正体をある程度把握しているらしいフォトは魔術師用の手袋でペタペタと壁を触ると、ある一点でピタッと動きを止めた。

「それじゃあ…このへんの壁を、もらおうかな」

 手に力をこめ、フォトの虹彩が輝くと同時にコンクリートの壁に亀裂が走る!

 ビキッ、バリバリバリバリッ!

 指先から溢れる光の奔流とともに壁がみるみる崩れていき、内部の鉄筋が意思を持つ生物のように複雑に動き、絡みあっていく。

 やがて鉄筋の束が人間の骨格のような形状に纏まると、そこへコンクリート片が付着し巨大な石人形となって動き出した。

 これがフォトの操る魔術の十八番、ゴーレム生成。

「フーッ、やっぱり依り代があったほうが疲れないし、簡単に操れるなぁ」

「それはいいけど、やり過ぎて建物が崩れないようにしてね」

「大丈夫だって、この建物の構造は全部把握してるから」

 呆れ顔を見せるオロシに笑顔で答えながら、フォトは立て続けに休憩所にあったロッカーやベンチを解体して次々とゴーレムを作り出していく。

 普段はこうした資材を使うことはできず、素材となる物質の生成もすべて自力で賄っているのだが、それには多大な魔力を必要とし、さらに素材の強度も現実に存在するものより遥かに劣る。

 能力が能力だけに、あまり目にする機会のないフォトの本領を目の当たりにしたオロシは一つの疑問を口にした。

「ところで、わざわざ骨格から作る意味ってあるの?たんなる凝り性とか?」

「違う、違う。全体を一つの塊として操るより、骨格部分だけに魔力を通したほうが疲れないし、効率いいからね」

 この場合、魔術の本質としては骨格部分だけがゴーレムで、装甲部分は一時魔法で固着させているに過ぎない。

 複合魔術は難度こそ高いが、フォトほどの術者ともなれば、パワー任せで単一魔法を操るよりも効率の良い運用が可能だった。

「よーし、いますぐこのゴーレム軍団でアホどもに目にものを見せてくれるじゃん!」

「駄目駄目駄目。それは許可できない」

「えーなんでー!」

「フォトにはもっと重要な役目があるだろ」

 やる気に満ち溢れた目を輝かせるフォトを、オロシは半ば呆れ顔で静止した。

「負傷者の安全確保と医療セクターへの運搬が最優先だよ。敵を撃退するのは僕と兄さんの役目だ」

「ちぇーっ。そうやって、いっつもあたしだけ除け者にするんだから」

「適材適所だって。僕と兄さんがサポートに回っても手が足りないし、全員を攻勢に回すわけにいかないだろう?」

「わかってるけどさぁ…」

「わかってる、けど、なに」

「…たまにはあたしも暴れたい」

「いや、気持ちはわからなくもないけど。これ、仕事だからさ」

「うー」

「唸ってもだめ」

「やー」

「叫んでもだめ」

 唇を尖らせて不満を漏らすフォトを、オロシはどうにか諌めようとする。

 これはべつに、フォトの戦闘能力を過小評価しているわけではない。

 むしろフォトが操るゴーレムの軍団による連携はオロシとビリスが二人がかりでようやく制圧できるほど強力なのだが、戦闘能力が高いからといって、それを理由に前線に投入するのは浅慮だ…というのがオロシの考えだった。

 最初の攻撃と、それに続く銃撃ですでに多数の負傷者が出ていることは想像に難くない。また、すぐにも監視カメラのモニターをチェックしているブレイから報告があるだろう。

 負傷者を放っておくわけにはいかない、これは仕事云々以前の基本的な道徳概念の問題だ。

 いくら生態が異なる種族といえど、長い間ともに仕事をしてきた同僚を見殺しにするほどオロシは冷酷ではなく、それはビリスも同様だ。フォトはちょっと怪しいが…

 ともあれ、負傷者の安全確保を迅速に行なうにはフォトのゴーレムがもっとも役に適している。

 万が一オロシとビリスの二人では手に負えないような敵なら…そんなことはまず有り得ないとオロシは考えていたが…その判断こそ、まさにフォトがすべての負傷者を退避させてからで充分だ。

『こちらセキュリティ・ルーム、正体不明の敵の攻撃により負傷者多数!なお、敵は二手に分かれた模様』

「わかった。すぐに対処する…行こう、兄さん」

「ああ」

 ブレイからの報告を受け、オロシはビリスを伴って出撃した。

 

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「ここで一旦お別れだな、チャー公。気をつけるんだぜ」

「そっちこそ、あまり無茶しないでね」

「無茶はオレの十八番だ」

 ILCビルに侵入したベケットとチャペルはAR上に表示したマップから現在地を確認し、階段の近くまで行くと、二人はそこで別行動を取ることにした。

 これはアドリブではなく、当初から予定に入っていたことだ。

 立ち去る前にベケットはチャペルの腕に抱かれただいすけを一瞥し、「大丈夫かこいつ…」とヘッドギアの内側で眉をしかめたのち、余計な一言が口から飛び出しそうになるのを飲み込んで背中を向けた。

 一方でチャペルも音を立てずに素早く移動するベケットの後ろ姿を見届けてから、階段を下りていく。

 もともと地下フロアにはあまり多く警備が配置されていないはずだが、地上での騒ぎに人員を回され、さらに少なくなっているはずだ。それが狙いだった。

 しかし廊下を駆け、角を曲がったときに、運悪く警備の人間と鉢合わせしてしまった。

 おそらく階上のトラブルにおっとり刀で駆けつけようとしていたのだろう、二人のILC保安部員はチャペルの姿を認めると、即座に握っていた短機関銃の銃身を向けてきた。

 まだ敵かどうかの判断はできていないはずだが、最上級警戒態勢が発動され、見たこともない奇妙な装備を身につけた相手を撃たない理由はなかった。

「「…、フ、フリイィィーーーィィズ……!」」

 警告を口にしながら、ILC保安部員の二人が引き金にかけた指をしぼる。

 だが、そのとき!

 ジャアァァーーーンッッッ!!

「「ぐああぁぁぁぁーーーっ!!??」」

 だいすけのADフィールドが発動し、その影響を直に受けたILC保安部員たちは銃を放り出してその場に崩れ落ちる!

 ベケットやクレインは一時の動揺だけで済んだが、狐魂に比べ脆弱な精神防御しか持たない人間は狐魂の固有能力『霊撃』による影響を顕著に受ける。特に精神に作用する霊撃は尚のことだ。

「心が壊れるほどキツくはないと思うけど、それでも暫くは動けそうにないわね」

「っぐ、ぐぅうおおぉぉぉ……」

「当然の報いよ。撃つ気満々でフリーズなんて言うから」

 苦悶の声を上げ続けるILC保安部員を一瞥し、チャペルはその場を立ち去った。

「へっへっへっへっ」

「よーしよし、いい子いい子」

 廊下を駆けながら、チャペルは携帯していたビーフジャーキーのビニールの包みを剥がしてだいすけに与える。

「ハグ、ハグッ、アウアウ」

「よーしよしよし」

 チャペルはビーフジャーキーの包みをその場に捨ててから、たったいまの自分の行為について吟味した。

 軍事作戦だろうが軍の絡まない特殊作戦だろうが、現場で痕跡を残すのは御法度だ。食料品の包装紙はもとより、大小便ですらポリタンクやビニール袋で包んで持ち帰るのも「やって当然」の配慮である。

 そこで…この高級ビーフジャーキー、高級スーパーで富裕層が酒の肴に購入していく類のブランド品の包みを敵が発見したとして、何がわかるだろうか?

 チャペルの存在を示す痕跡にはなるだろう。監視カメラの捉えた映像や、無力化された保安部員の連中とおなじくらいに。

 そしてビニールに記載されたロット番号を追跡すれば製造工場が判明し、出荷先を特定し、うまくすれば顧客のリストまで引き出すことができるだろう。

 そうしてわかることといえば、チャペルとはまったく関係のない人間が、大量に買いつけたビーフジャーキーの箱を積んだ乗用車ごと盗難に遭ったという記録を地元警察が保管していることくらいだ。もちろん、それが「仕組まれたもの」であることを証明する手段はない。

 つまり若干ジャーキーの脂がこびりついたビニールを発見・回収されたところで、チャペルにはなんの不利益もないのだった。

 むしろ何の変哲もないジャーキーの包みに意識を集中してくれれば、それが撹乱になる。「どんな小さな痕跡も逃がさない」という探偵精神は、すなわちどうでもいいことへの時間の浪費を意味していた。

 そう、セオリーを守るだけが最善手ではないのだ。

 ア、ハ、ハ…そんなことを考え、内心で笑い声を上げたところで、チャペルは個人通信をソナーに繋いだ。

 暗号化された通信を解読する僅かなタイムラグののち、ソナーの顔がAR上の通信窓に表示される。

『こちらソナー、通信状況は良好です』

「そろそろ侵入の準備をはじめるよ。例のアレ、使えそう?」

『あ、はい。いまのところ安定してます、すぐに仕掛けますか?』

「お願い」

『らーじゃ』

 軽く敬礼のポーズをとったのち、ソナーの通信窓が閉じられる。

 彼女はアイマスクで顔の大部分が隠れてはいるが、感情表現そのものは素直でわかりやすい。

 滅多にない攻性の役だからノッてるな…そんなことを思いフッと笑みを漏らしてから、チャペルは通路の角に取りつけられた監視カメラの回線をアイカメラの拡大映像越しに確認した。

 

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 ブレイは地下階への侵入者を発見したのとほぼ同時に、ネットワークに異常な負荷がかかっていることに気がついた。

「…なんだ?」

 監視カメラの映像チェックも平行して行いながら、ブレイは謎の負荷の原因を探る。

 まったく、間もなく敵と対峙するビリス・オロシ兄妹のサポートもしなきゃいけないのに…

「これは…サーバーに外部からのアクセスが集中している…?」

 サーバーへのアクセスログを参照したブレイは、外部から過剰なアクセスが集中していることに気がつく。それも、はじまってからまだ間もない。

「どう見ても社外の人間からの不正アクセスだ、けど、まだファイアウォールは破られていない…パスワードの解析に手こずってるな。フン、IPはどれも違うけどアクセス経路は似通ってるな。偽装か、幾つも回線を抱えているか…無駄なことを」

 一見して複数の端末からアクセスしているように見えるが、信号を追跡したところ、すべて同じ場所から発信しているようだ。

 たぶん…ブレイは考えた…あの装甲車だ。

 襲撃を仕掛けた人数から考えれば、装甲車は一輌で充分だったはずだ。ブルジョワ趣味でもなければ、やたらと足を分散させる意味はない。だが、そうでなければ別の理由があるはずだ。

 もちろん予備の人員を待機させている可能性もある、しかし現状を考えれば電子戦要員と専用機材を積んでいると判断すべきだろう。

 襲撃者がそんな手段を使ってきたことは驚きに値するが、その手口はおおざっぱなロケット攻撃と同様に稚拙だった。

 おそらくパスワード解析に用いているのは、もっとも単純で原始的なブルートフォース・アタック。

 どうやらアドレスの適宜変更でログイン回数制限を回避しているようだが、どのみち、そんな手法で突破できるほどやわなセキリティではない。パスワードも完全に規則性のない文字列だから、ディレクトリ・アタックも無意味だ。

 問題はそんなことではなかった。

「なんだよ、この速度は」

 驚くべきは、そのアクセス頻度だった。

 驚異的な速度で送信されるリクエスト要求は標準的なPCの百倍、いや千倍の演算速度で処理されており、これはソフトの効率化やハードの性能を引き上げるだけでは到底不可能な所業だ。

 いったい、どんなスパコンを使っているというのか。

「まずいな…これじゃあ、反撃する前に高負荷でサーバーがダウンするぞ」

 そう言って、ブレイは「ハッ」と息を呑んだ。

「まさか、最初からDOSアタック狙いか?侵入を偽装したぶっ壊しか…!」

 普段なら逆探知して個人データを抜き取ったあとでウィルスでもぶちこむところだが、今回は成功の可否どころか試行の猶予すらなさそうだった。

 やられっぱなしは癪だが、とブレイは歯噛みしつつ、外界とのネットワークを遮断。

 社内のローカルネットワークのみ稼働している状態に移行する。

「外部との連絡手段がなくなったのは痛いけど、余所に助けを求めることができるような状況じゃないしなぁ。それに、会社の財産は守らないとね、と…おや?」

 (ネガティヴな手段ではあるが)一応の安全を確保したのも束の間、ブレイはセキュリティシステムの一部に異常が発生したことを「知覚」する。

 それは広域ネットワークを遮断する前後で覚えた一瞬の違和感。

 システムを走査したブレイはすぐに、地下エリアに設置されている監視カメラが再生モードに切り替わっていたことに気がついた。

「これは…さっきのヤツとは別口か!まさか社内からも仕掛けてきたのか!?」

 監視カメラの制御システム周辺に複数のウィルスが仕掛けられているのを発見したブレイは、慎重にそれを凍結し内容を解析する。

「どうやらシステムの書き換えは手動で行なったようだな…このウィルスは単なる置き土産か。ウィルス自体はスクリプト・キディ(素人坊や)にでも扱えるようなありふれた代物だな、面白くない( feels so bad )」

 そう、面白くない…ブレイは素直にそう感想を漏らし、ため息をついた。

 おそらく先のブルートフォースは囮で、こっちが本命だったのだろう。こちらの隙が生まれるタイミングを見計らって監視カメラに細工し、地雷まで仕掛けていった。

 明らかに素人仕事ではない、随分と手馴れている。

 であらばこそ、仕掛けた地雷がつまらないものだったことにブレイは違和感を覚えていた。

「手際の良さと道具の凡々さが不釣合いなんだよな…出し惜しみしてるのか?」

 地下エリアの監視カメラを復帰させたとき、ブレイは過去の映像との誤差を照合して保安部員二人を無力化した侵入者の姿が消えていることを確認していた。

 おそらく、あれがウィルスを仕掛けていったハッカーだろう。

 監視カメラの視野の外にいるということは、これから仕事をするのに、外部から邪魔が入ることを恐れているに違いなかった。

 場所さえ特定できれば、ブレイはハッカーのいる場所に戦闘員を派遣するだけでいい。

 つまり…本番はこれからだ、ということだ。

「まったく、味なマネをしてくれるな」

 そう言うブレイの目つきは、こころなしかギラついているように見えた。

 それはおそらく相手が、ブレイの新たな戦場…電子戦というフィールドに、はじめて現れた好敵手と成り得る存在だったからかもしれない。

 なにより、あの仕掛けの素早さ。

 繊細さのかけらもないブルートフォースと違い、ソフトやハードの性能だけでは補えない細工の数々はキーパンチャーでは到底不可能な所業だろう。

 つまり、相手もDNI…電脳化している可能性が高い。

 不覚にも…ブレイは先が予測不可能な現状を、楽しんでいた。

 

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「あ~ん、涼しい。やっぱり作業するならここが一番よねぇ」

「アウッ、わふわふ」

 監視カメラの死角から、カメラに接続されているケーブルを中継してシステムに干渉したチャペルはいま、地下フロアのサーバールームの一角で息を潜めていた。

 サーバールームは冷房が低い温度で設定されており、熱気に晒された外界に比べ快適だった。体温調節機能があるサイバースーツを着用していても、それは変わらない。

「さぁてと…」

 チャペルは蛇のように大量に床をのたくるケーブルを物色し、そのうちの一本を手に取ると、指先に仕込まれているレイザー・ブレードを使ってビニール被膜を剥き、中継器を噛ませた。

 こうすればネットワークを稼働させたまま回線を借りることができる。

 一度でもオフラインにすると、(それが通常でも起こり得る動作であっても)管理者に怪しまれる恐れがある。その対策だった。

「まずは一般ユーザーのアカウントでログイン…フフ」

 じつは作戦決行前にベケットのチームはILCの社員を複数人買収しており、建物の見取り図や各フロアの特徴といった内部情報を彼らから得ていた。一般ユーザーのアカウント名とログイン用のパスワードも然り。

「ブルートフォース仕掛けたのがその目くらましだってこと、気づくカナ?」

 ちなみに桁外れの演算速度でブルートフォース・アタックを仕掛けていたのは装甲車内で待機しているソナーで、彼女が使用したのはチャペルと共同で開発した試作型の量子コンピュータだった。

 動作が安定しないため実用化には程遠いが、それでも性能の一端を垣間見ることはできたわけだ…とチャペルは思った。

「とりあえずセキュリティを無効化するにはあどみん権限を取得しないとねー」

 おそらく、この先は管理者との全面対決になる。

 もちろんその正体はわかっている。上司との付き合いが浅い下級職員でも、要職に就く者の顔と名前くらいは知っているものだ。それが人間でないなら、なおさら。

 ブレイ。先日の、デモパーティで顔を合わせた狐魂。

 その実力は最初に想定していた以上で、負けん気の強さも折り込み済み。一度こちらに喰らいついたら、決して離すことはないだろう。

 ここからは完全に『没入( dive in )』することになるだろう。外界に繋がる感覚を完全に遮断(シャットダウン)し、ネットワーク上の工作に専念することになる。

 無防備。物理的な攻撃への抵抗を一切持たない状態。

 だからこそ、「彼」が役に立ってくれる。

 チャペルはだいすけをぎゅっと抱きしめ、優しい声でそっとつぶやいた。

「…アタシを守ってね?」

「ワウ!ワウ!ふすん」

 チャペルの小さな騎士は「任せておけ」とばかりに声を上げ、尻尾を振った。

 その健気な仕草にチャペルはふっと微笑み、ネットに意識を集中すべく目を閉じる。

 なにも緊張することはない、やることはいつもの遊びとおなじ。自分の得意フィールドでの活動。大丈夫、すべて上手くいく。

 床の上に腰かけ、DNIをサーバー経由のネットワークに直接接続した状態で、チャペルの口から歌声が漏れた。

「しーくのれーっじ、わずまいめーんげーむ♪とぅーふぃがーうざろーぅ、とぅーふぃがーうざふれーむ♪じゃすふぇなーいさうあいねぅじゃすてーす、あこっびはいんみーせっど、ゆぶじゃすびーんばすてーど♪」

 古いゲームのテーマ曲を(若干音痴な歌声で)口ずさみながら、チャペルは五感を遮断し没入した。

 

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「酷い有り様だな…ブレイ、ここから一番近い位置にいる侵入者は?」

『西棟第二開発室を通過して北に移動してるやつがいる。二人組(ツーマンセル)。武器はアサルトライフルとマシンガン、型は不明。ヘンな鎧をつけてる』

「鎧?」

『既存の兵装ではないね。強化外骨格かも。それと、耳と尻尾が見える…どうも、同輩らしいよ』

「ほう…」

 侵入者を迎え撃つべく出動したビリスは、いまいち釈然としない物言いをするブレイの態度に首をかしげた。

 常に的確な指示を出すことを…一足す一は二、言葉は常に簡潔であれ、おやつは三十ルピーまで、といったようなことを…好むブレイが、「たぶん」とか「かもしれない」などという余計な副詞をつけて話すことは滅多にないからだ。

 それは、状況がそれだけ不確定なものであることを意味している。

 武装警備員が配置されているとはいえ、ドンパチとはほとんど無縁の職場環境だったのは確かだが、だからといって平和ボケしたわけではあるまい。

 負傷者を搬送するためフォトの操る小型のゴーレムがせわしなく周囲を駆けまわるなか、ビリスは瓦礫を掻き分けつつ襟首の小型無線機に向かって話しかけた。

「その二人、どういう動きをしている?」

『教則本(マニュアル)通りのクリアリングだね。銃の構え、歩き方、どれも標準的な軍隊(ミリタリー)のものだ』

「ジュツ(術)を使った形跡は?」

『いまのところ、それらしい動きはないな』

 妙だな、とビリスは敵の動向を訝る。

 火器を使った物理攻撃頼みだと?狐魂が?そんなことってあるのか?

 いや、それ自体が目眩ましである可能性もあるな、とビリスは考えた。シャーマンですら自衛用に短機関銃を下げる時代だ。なにか特別な力を隠していてもおかしくはない。

 それよりも、ビリスには他に懸念があった。

「ブレイ…さっきから、言葉に『間』があるぞ。なにか気になることでもあるのか?」

『え?』

「俺の気のせいならいいんだが」

『…君に隠しごとはできないな、まったく。ちょっとまえ、敵からハッキングを受けた』

 観念した、とばかりに(もっとも、最初から話すつもりではいたのだろうが)ブレイが息を吐き出す。

『対処するために外部とのネットワークを遮断させられたよ』

「大丈夫なのか、それは」

『もし敵に外部の協力者が多数いるとすれば、むしろ、いまは外向きのネットを解放してるほうがやばい。それよりたぶん、敵はまた仕掛けてくる』

「外部とのネットは遮断したんだろう?まさか、侵入してきた連中のなかに工作員がいるのか」

『そう。ご丁寧に監視カメラの追跡を振り切って姿をくらましたよ』

「こっちから探したほうがいいか?」

 自分が出向くか、あるいはフォトのゴーレムを数体借りるか、人間を差し向けるか…いずれにせよ、ハッカーがそれほど大それた戦闘能力を持っているとは思えない。

 なにより不穏分子を放っておくわけにはいかない、というビリスの判断だったが、それに対するブレイの返答は極めて消極的だった。

『いや…いま戦力を割くのはまずい』

「しかしだな…」

『それにあいつ、DNI持ちだった。もしハッキングを利用して相手のセキュリティ深層まで潜れれば、敵側の正体や目的をすべて丸裸にできる。試す価値は…あると思う』

 それは危険な賭けだった。おそらく、ブレイもわかっていて言っているはずだ。

 ビリスはすこしの間逡巡する。司令塔をハッキング対策にあて、さらに失敗したときのリスクを考えれば、「あえて敵を泳がせる」というのはあまりに危うい綱渡りだからだ。

 しかしここで反対してもブレイは納得すまいし、なにより彼は自身の能力を疑われることをなによりも忌避する傾向がある。

「…信用していいんだな?」

『任せて。それと、サポートは引き続き行なうから安心して』

「無理だけはするなよ」

 それだけ言うと、ビリスはブレイとの無線交信を止めた。

 まったく…ビリスはやれやれとかぶりを振る。

 あれは一見大人しそうだが、実際は妹たちと引けを取らぬほどのはねっかえりだ、あの負けん気の強さはどこからくるのか…とため息をついた。

 まあいい、失敗したとして、たかだか一蓮托生で首を括るくらいだ。女のわがままに付き合う代償として、これだけありふれたものがあるだろうか?

「ふっ」

 ビリスは自嘲の笑みを浮かべ、生まれついての女運のなさを一瞬だけ振り返ったのち、ふたたび真顔で正面を見据えた。

 ガシャ、ガシャ、ガチャンッ…

 瓦礫を踏み分けて進んでくる金属音が耳に届く、おそらくは侵入者のものだ。

 巨体をのっそりと動かしながらビリスは倒壊した壁をくぐり、デスク同士が仕切りで遮られた開発室へと足を踏み入れた。

 ここも、つい数時間前までは職員がせわしなく手を動かしてPCモニターにかじりついていたというのに。

 ただの平和な職場だったはずだ、銃を持った警備員が巡回しているのは最低限の保安措置で…パキスタンとの国境近くだからか、あるいはこの会社が軍用のセキュリティ・ソフトウェアを納品していたから、逆恨みを恐れてだったか?

 いずれにしても、いきなりロケット弾を撃ちこまれていいような場所ではなかった。すくなくとも、ビリスにとっては。

 理不尽な暴力、すぐにもその操り手が目前に現れる。

 ビリスは腰にぶら下げていたミニチュアの斧を握り、軽く念を込めた。するとミニチュアはみるみるうちに大きくなり、それは柄の両端がチェーンで繋がれた二対の両刃の戦斧へと変化した。

 まるでヌンチャクのように連結された斧を両手に持つのと、侵入者が姿を現したのは、ほぼ同時だった。

「交戦規定( ROE )は自由射撃( weapons free )、警告はなし( no more “FREEZE” )。わかってるわよね」

「そうそう初心なミスはしませんよ」

 部屋に突入してきた漆黒の鎧兵士…アンダーウッドとルイスはビリスの姿を視認すると同時に、銃の引き金に指をかける!

 ドガガガガガッ!

 弾雨は両者を遮っていたデスクや仕切りを粉砕し、真っ直ぐにビリスを狙っていた。

 間断なく飛来する銃弾を、ビリスは斧を盾のようにかまえて受け止める!

 しかし!

 バリッ、バキバキッ!

「う…むっ!?」

 ルイスのケルベロスヘッドから放たれる12.7mm弾、別の銃身やアンダーウッドのXM2014に装填されている7.62mm弾の倍のサイズと五倍の威力がある大口径ライフル弾はみるみるうちにビリスの斧にヒビを入れ、欠け、破損させていく!

「うおおっ!」

 姿勢を低くして一時弾雨を逃れたビリスは右手の斧を重装狐組に向かって投擲する。

 若干無理な姿勢から放たれた一撃は正確で、それはアンダーウッドとルイスの両者を直線上に捉えたコースで飛来した。

「あっ、危ねえ、なんてアナクロな武器だ」

 どうにか身をよじって斧の一撃をかわしたルイス、しかしそこで敵の攻撃が外れたと思い、ふたたび銃をかまえなおしたのは判断ミスだった。

「フンッ!」

「え、ワッ( What )…!?」

 ビリスがチェーンを引っ張ると同時に、凄まじいスピードで戻ってきた斧がルイスの背を目がけて飛来する!

 ガキッ、ジャリジャリジャリッ!

 刃による致命的な一撃を咄嗟の身のこなしで避けたものの、そのままチェーンがルイスの身体に巻きついて動きを拘束した!

「なッ、なんだよこれ、鎖が伸びて長くなってるじゃあねーかッ!」

「ルイス!」

「物理法則ってもんを知ら…うわああぁぁぁぁぁっっ!?」

 すぐさまライフルを下げてコンバットナイフ(背がノコギリ状になっていて、鎖を切断できる)を抜いたアンダーウッドの反応は間に合わず、チェーンが絡みついたまま引っ張られたルイスは宙を高く舞う!

 ドガッ、ガラガラガシャーーーン!

 そのままデスクの真ん中に突っ込み、ルイスは仕切りを薙ぎ倒しながら床に倒れた。

「ルイス、グレネード!」

「え、ちょ待っ…」

 すでに自分から離れ敵の手が届く位置までルイスが引き寄せられたことを悟ったアンダーウッドは、間髪入れずにアサルトライフル…試作型のXM2014の銃身下部に装着されたグレネードランチャーを発砲する!

 ボシュ…ウッ!

 大穴から飛び出した40mm口径の擲弾頭が白煙をあげながら、ビリス目がけて飛翔する!

 使用したのはHEDP(多目的榴弾)、直撃さえしなければ第二世代型重装狐アーマーを損傷させることはないという判断である。

 相手が生身であれば、たとえ直撃を避けたとしても、この閉鎖空間だ。爆発の際に飛散する無数の金属片で肉体をずたずたに切り裂かれてしまうだろう。

「(受けても避けても死、ならどうする!?)」

 ビリスの動向を窺いつつ、再装填をはじめるアンダーウッド。

 しかしビリスの行動は予想外のものだった。

 ザッ、キン……

「……え?」

 ビリスは決して微動だにせず。慌てた様子も見せず。

 ただ…ただ、斧の刃を傾け、擲弾を上空に弾きとばした!

 その様子を高精度アイカメラで捉えていたアンダーウッドは、そのワザの巧みさに呆然とするほかなかった。

「(有り得ないわ…着発信管を作動させないよう、刃の角度をゆっくりと動かしながら斧で弾いた!?あの一瞬、たった0.02秒ほどの間で弾頭にまったく衝撃を与えず、ほぼ90°の角度で弾くなんて…!)」

 だが、感心している場合ではなかった(実際はほとんど隙を見せていなかったが)。

 このまま次の弾を装填している「間」はない、と判断したアンダーウッドは空薬莢を取り除いた時点で銃身を閉鎖し、そのままライフル弾で応射すべく銃をかまえなおす。

 しかしアンダーウッドが引き金をひくより早く、ビリスは上空に飛んだ擲弾をキャッチすると(落ちてきたところ、ではなく、ほぼ上空に飛んだ瞬間。このことからアンダーウッドの動きも相当素早いことがわかる)、「ムウゥゥンッッ」声を張り上げ、アンダーウッド目がけて投げ飛ばした!

「ひっ!?」

 ほとんど標準的なグレネードランチャーから発射されたのと変わらないスピードで、さらに回転しながら飛んでくる豪速球を目視したアンダーウッドはすかさずその場に伏せる。

 つい先刻までアンダーウッドの頭があった場所を通り過ぎた擲弾頭はコンクリートを砕きながら壁に激突した!

 ドバアァァーーーーンッ!

 派手な爆発音とともに壁が粉砕され、その破片が弾頭の金属片とともにアンダーウッドのボディに降り注ぐ!

 もっとも大口径ライフル弾の直撃でさえ耐える戦闘特化型の第二世代型重装狐アーマーにダメージを与えることはなく、せいぜい表面を傷つける程度の被害に留まったが、それよりも装着者の…アンダーウッドの精神に与えた動揺のほうが深刻だった。

「(なんてこと…楽な作戦ではないと思っていたけれど、これほどなんて。相手は、明らかに『慣れて』いる。こういう状況に。銃口に狙われても恐れず、正面から反撃できるなんて…)」

 ガラッ、ザラザラ…

 身体の上に積もった瓦礫や塵が落ちる音を聞きながら、アンダーウッドは銃をかまえて立ち上がる。

 XM2014のスコープに搭載されたレーザーポインターがビリスの額を捉え、このまま引き金をひけば必殺の命中弾が叩き込めるように思える。

 しかしビリスは警戒するかわりに片眉を吊り上げ、「度し難い」というふうに首を振って言った。

「まさか、本当にそれだけなのか?」

「…… …… ……?」

「人間とおなじ武器、人間とおなじ動き。そんな実力で戦えると思っていたのか」

「ゴチャゴチャうるせーぞ、オッサン」

 そう返したのはルイスだった。

 どうやらCONアーマーのパワーアシストを使ってチェーンを引きちぎり、拘束状態から逃れたらしい。

 腕を振るって身体にまとわりついていたチェーンを振り払ったルイスは、バイザー越しにビリスを睨みつけたまま、アンダーウッドに通信をする。

『隊長、ここは一旦逃げましょう』

『逃げる?』

『だって今の俺らじゃ勝てないでしょう、アイツに。二手に分かれましょう。それで隙が突けりゃあ御の字です』

 その言葉は有無を言わさぬ態度だったが、どのみち、考えている時間はなかった。

 ズドガガガガガガッッッ!

 ルイスが発砲をはじめると同時にアンダーウッドが駆け出し、ルイスも銃を撃ちながら後退をはじめる。

「この…逃がすかぁッ!」

 片手の斧で銃弾を防ぎながら、ビリスがもう片方の斧を投擲しようとした、そのとき。

 バキャアンッ!

「ぬぅッ!」

 斧を振りかぶった瞬間、斧がバラバラに粉砕され砕け散る。

 それは銃弾によるものだった。ただし、ルイスのものでも、アンダーウッドのものでもない。

「狙撃か…部下の報告を失念していたな」

 たしか壁を射抜く威力があると言っていた、だとすれば斧が一撃で破壊されるのもむべなるかな。それも狙撃用に調整された弾丸であれば尚更。

 さすがに狙撃手の視界の内で立ち回りを演じる気はない、すでに姿を消した二人の敵を探しながら、ビリスは予備の斧を手にその場をあとにした。

 

 

 

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