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「グレアム尊士の好き勝手放題」

      

 

      

『コンコンコレクター - SIDE STORIES -』

- Shop Flaurein Series -

【 Erostis - After Days - 】

 

 

 

 

 

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「いったい何をしに日本に来たんだろうね、あいつら」

 ただでさえ狐魂犯罪が増加傾向にある昨今、決して暇ではないというのにパトロールに回された霊能局捜査課の刑事サチコ・ギブソンは、いささか道化た修道服を身に纏っている集団に目を向け、誰ともなくそう呟いた。

 愛狐教会から分離した過激な組織ドミノ・シグナリア派。

 『欲求に忠実たれ』を教義とする胡散臭い連中で、愛欲による人心掌握で平和を実現させようとしているらしい。性風俗まがいの勧誘で信者を増やしているほか、各界の著名人を秘密裏に籠絡し支援を受けているというウワサもある。

 その性質から目立たない地下で活動を続けているため、いまひとつ実態が掴めず全容の把握が難しい、というのが当局の評価だった。

 破壊工作こそ行なわないものの、麻薬取り引きの疑いがあるほか幾つかの犯罪行為への加担・テロ活動への関与が疑われているため、アメリカをはじめとする西欧諸国では危険な団体として要注意リストに名を連ねているという。

「日本は狐魂容認派のメッカだからね。信者を増やしたいのだろう」

「狐魂への迫害が少ないうえ治安が良いし、ちょっと怪しいくらいじゃ手出しされないってわかってるんだろ。見ろよ、おおっぴらに宣伝活動なんかしやがって」

 サチコの傍らで、同僚のブラックショットとミレグラがそれぞれ初見を述べた。

 ブラックショットは物質に宿る記憶を読み取る能力を持つ青年で、生物を含むあらゆるものに触れただけで無差別に記憶(残留思念に限らないため、厳密にはサイコメトリーとは区別される…らしい)を読み取ってしまうため、普段は能力遮断用の手袋を身につけている。

 ミレグラはやや気性の激しい女性で、手に触れたあらゆる物質を粉砕(こちらは任意)する「破壊の手」の持ち主だ。喧嘩っ早く、彼女の機嫌を損ねると大抵とんでもないことになる。

 無関係な人間から見れば宗教関係者とおなじくらい胡散臭い三人組は、あまり熱心ではない態度で見回りを続けていた。

「だいたいナミ(普通警官)の手が足りないからって、刑事まで警備に駆り出すかなぁ、フツー」

「それもいままでずっと裏で動いてて、最近になってようやく表に出てきたような特殊な連中をサ。偉い連中の考えることはわかんねーよな、つくづく」

「体制側に協力的な狐魂の存在をアピールしたいのさ、我々が表舞台に引っ張り出されたのも、そもそもがそういう理由だったのだから。なにもかもお上の都合、私たちは引っ張りまわされるがまま、ただまぁ、公務員なんてそんなものなのかもしれないね」

 サチコ、ミレグラ、ブラックショットの三人は、ぶつくさと文句を言いながら道路脇を逸れて公園に入る。

 超高層ビル群と最先端テクノロジーのメッカであり、市民権を与えられた狐魂たちが人間に混じって生活していることから『幻想都市』と名づけられたチバ・シティの喧騒の中で、この道場公園だけは前世紀と変わらぬ雰囲気を残したまま今日まで存在し続けている。

 何気なく立ち寄っただけではあったが、サチコは中央の広場でちょっとしたトラブルを発見し、やや小走りに現場へと向かった。

「なにも怖がる必要なんかないですよ?私たちは本当に、この世界の平和のために…」

「そんなこと言って、人間を騙して世界征服するつもりなんだろう!お前たちは宇宙からの侵略者だって、テレビでやってたぞ」

「…何の番組かなぁ、それ……」

 子供たちが物珍しそうな表情で見守るなか、愛狐教会の修道服に身を包んだ女性と、チェックのシャツにビームサーベルめいたポスターを突き出したザックという前時代的なオタク・ファッションの青年が、なにやら言い合いをしている。

 他愛のない光景ではあったが、明らかに両者とも合意のうえで話を進めているようには見えなかったため、サチコはパンパンを手を叩いて気を引きつけ、二人の間に割って入った。

「ハイハイ、公共の場で強引な勧誘行為は違法だぞー。そこの狐魂、その非モテ青年を放してやりなさい」

 パッ、突然の第三者の出現に驚いたのか、女性が腕を掴んでいた手をパッと離した隙に、青年は一目散に走り去っていってしまった。

 途中でこけそうになりながら公園を出ていった青年の背中を見送ったあと、サチコはため息がちに女性…エラスティスに向き合い、口を開いた。

「あのねー。うちは平和な法治国家だからあんまりうるさく口とか手とか出さないけど、あんまり調子に乗ってると取り締まりを強化しなきゃならないかもしんないからね?ちょっとは自重してくれないかな」

「ハーイ、わっかりましたぁ。…霊能局捜査課の、サチコ・ギブソン、刑事?」

「…え!?」

 おどけた態度で敬礼を返すエラスティスの口から漏れた言葉に、サチコが驚きの声を上げる。

「…アンタとは初対面のはずだけど?どこであたしの名前を……」

「だってこれ、あなたのでしょう?」

 警戒しながら相手の正体を訝しむサチコに、エラスティスは彼女の頭上で一冊の手帳をヒラヒラと振って見せた。

 サチコにとって非常に見覚えのある「それ」は、何を隠そう霊能局捜査課のIDカード。いわゆる警察手帳とかああいった身分証に類するものである。

 たしかシャツの胸ポケットに入れていたはず…サチコは発育途上の平坦な胸元をまさぐり、いつもたしかに存在している感触がないことに気がつくと、慌てて両手を振りながらエラスティスに突っかかった。

「あ、ちょっ、それ!返せぇ!」

 どうにかして取り返そうとするが、如何ともし難い身長差がそれを阻む。エラスティスに片手で頭を抑えられただけで身動きが取れなくなるサチコ、刑事として形無しである。

 この場合、エラスティスが長身というよりは、サチコが例外的に小さいのであるが。

「ふ~ん、霊能局って警察庁じゃなくて皇宮直下の組織なのねぇ。公安傘下じゃないのか。あれ?」

 じたばた暴れるサチコを抑えてIDカードの記載事項をつらつらと眺めていたエラスティスは、やがて手帳に挟まれた一枚の写真を見つけた。

 屈託のない、愛嬌のある笑みを浮かべたサチコと一緒に写っている大柄の男。

「子供みたいなナリで男と一緒の写真なんか持っちゃって、カーワイイ。これ、あなたの恋人か何か?」

「お、おまえっ、いい加減にしないと…!」

 お茶らけた態度を取り続けるエラスティスに、たまらずサチコが激昂する。

 いや、ちょっと様子がおかしい…?サチコの発する感情に、怒りだけではなく明確な殺気が混じっていることにエラスティスは気づき、不適な笑みを崩さぬまま警戒態勢を取る。

 たんに物を取られたとか、馬鹿にされた程度でこれほど態度が変わるだろうか?いや違う、明らかに写真の内容に言及してからだ。しかも茶化されたからではない、もっと別の理由が…

 サチコが懐に手を突っ込んだのを見て、エラスティスは目を疑った。肩にひっかけたコートの下に、皮製のショルダー・ホルスターが隠そうともせず覗いている。使い込まれたローズウッドの銃把が揺れていた。

 まさか、往来で銃を抜くのか!?

 撃ちはしないだろうが、なにせエラスティスが日本に来るのは初めてで、霊能局のエージェントというのがこの国でどれほどの権限を持っているのかなどは丸っきり把握していない。目の前の小さな女性が、往来で狐魂を撃ち殺しても咎を受けない可能性を考えると、たんなる一時の感情の昂ぶりや虚仮脅しと侮るわけにはいかなかった。

 エラスティスがコートの下に隠していたポリカーボネイト製の投げナイフを掴んだとき、銃を抜こうとするサチコの手を何者かが制した。

「それ以上いけない」

 いつの間にかサチコの隣に立っていたのは、彼女の同僚であるブラックショット。

「特別な理由もなしに銃を抜くのは、たとえ発砲の意思がないにせよ始末書モノだからね?抑えて、抑えて」

「あいつ、あたしのIDカードを盗んだんだよ!?窃盗と公務執行妨害で射殺してやる!」

「ダメダメダメダメ。というか、その場合サチコさんの自己管理の甘さが局内で問題視されることに…」

 フーッ、激おこ状態の猫のように威嚇を続けるサチコをなだめながら、ブラックショットはエラスティスに向かって言う。

「それ、返してもらえませんか?いちおう官給品なので…すぐに返してもらえれば、窃盗行為については不問にしますので」

「わかったわ。べつに、モノが欲しくて取ったわけではないし」

 IDカードをブラックショットの手の平の上に乗せながら、エラスティスは彼にそれとなく質問する。

「ところで、この写真の男って誰なの?」

「亡くなった彼女の旦那さんだよ。γクラスタとの戦いで…サチコさんはまだ、そのことを気にしているんだ。あまり、彼女を刺激してあげないでくれるかな」

「ふぅ、ん…」

 事情を聞いたエラスティスは、ふたたびサチコを見つめる。

 また軽口を言われるのかと警戒するサチコに、エラスティスはさっきまでとはうってかわった真顔で話しかけた。

「ねぇ、あなた」

「なんだよ」

「…愛してたんだ?彼のこと?」

「はぁ?」

 なに言ってんだこいつ、エラスティスの真意が掴めないサチコは、ぶっきらぼうに言い放つ。

 しかしそれ以上の会話を続ける気はないのか、エラスティスはふっと笑みを浮かべると、「またね」と言って二人に背を向けて何処かへと立ち去ってしまった。

 微妙な空気のまま取り残された二人に、自販機で買ったドリンク三本を抱えたミレグラが近づいてくる。

「おいクロメガネ、言われた通り飲み物買ってきてやったぞ。なんであたいがこんな雑用を…どうした、なんかあったのか?」

「いえ、なんでも」

 おそらくあの場に喧嘩屋のミレグラが居合わせたら余計に騒ぎが大きくなっただろうと、あえて彼女を遠ざけていたブラックショットがとぼけた返事をしながら、そっとサチコにIDカードを返す。ちなみに、クロメガネとはミレグラがブラックショットを呼ぶときの愛称だ。

「ところでさっき公園から出てったヤツよー、あれいっつもこの公園で子供をウォッチングしてる不審者らしいぜ。あたいらの姿見て逃げやがったんだぜ、きっと。とっ捕まえたほうがよかったんじゃねーのか?」

「え?」

 突然のミレグラの言葉に、サチコが素っ頓狂な声を上げる。

 しばらくして、すぐにそれがエラスティスではなく、彼女の勧誘に掴まっていた青年のことを指しているのだと気づき、思わず苦笑いを漏らした。

 それっきり、サチコとブラックショットはエラスティスのことを忘れ去ってしまった。すくなくとも、このときは。

 

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「あいつ、結婚なんかしてたのか…」

 見覚えのあるコート。女が肩にかけていたコートからわずかに漂う、懐かしい匂い。

 まさかと思ったが、相手の正体を確かめずにはいられなかった。そして女の名前…サチコ・ギブソンという文字を見つけ、写真に目を通したとき、疑念は確信へと変わった。

 JJギブソン。

 かつてエラスティスをスカウトし、ともに麻薬組織壊滅のために戦った男。

 FBI捜査官だったはずのJJがなぜ日本に来ていたのか、どういった経緯でサチコと出会い、そしてこの国で命を落としたのか、エラスティスにとっては知る由もなかったが、それでも、それらの事柄についてエラスティスはあまり関心を惹かれなかった。

 霊能局の二人には素振りも見せなかったが、内心でひどくエラスティスを動揺させた、ただ一つの事実。

 JJが、死んだ。

 まるで浮世のしがらみなど関わりがないかのように飄々とし、どんな危地に立たされても素知らぬ顔でそれを乗り越えるあいつが。まるでアクション映画のヒーローのように、御伽噺の主人公のように、何があっても必ず何とかしてしまう、何でもできてしまう、そんなあいつが。

 死という自然現象からもっとも遠い場所に位置付けられていたような男の呆気ない顛末に、ショックを受けなかったといえば、嘘になる。それも、大嘘に。

「勝手に仲間に引き入れて…勝手に一人にして。勝手に結婚して、勝手に死んで。本当、勝手だよ、あいつ」

 もちろん、JJがそうやって勝手に振る舞ったことに対して、エラスティスに文句をつけられる謂れはない。

 そのことは、エラスティスにもよくわかっていた。わかっていたからこそ、あるいは余計に腹立たしかったのかもしれない。

 サチコが肩にかけていたコート、あれは間違いなくJJのものだ。

 よくよく愛していなければ、死人が身につけていた衣類を着ることなどできるはずもない。なるほど確かに、二人の結婚生活は幸せなものであったろうと想像するのはそれほど難しいことではない。

 人目を避け、逃げるように裏路地に身を隠してから、エラスティスは壁にもたれかかり、そっと嗚咽を漏らす。

「…やっぱり…私、好き、だったのかなぁ…あいつのこと……」

 まだ自身の罪を自覚していなかった当時、人間らしい恋愛感情とは無縁の生活を送っていたエラスティスに、そうと気づく余地がなかったのは確かだ。

 とはいえ、万が一エラスティスが自身に芽生えた恋愛感情を自覚できたとして、それで何かが変わったとは思えない。けっきょく、なるようにしかならなかった、そういうことだろう。

 ベッドの中でJJと朝を迎える人生など到底想像できたものではなかったが、それでも、エラスティスは胸にぽっかりと空いた喪失感を抱き、しばらく涙を流し続けた。

 

 

 

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